ブック 短編

□重なる手
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レッドは困っていた。

町を出た時には霧雨程度だった雨が、段々と無視出来ない程になってきたからだ。
生憎周りに雨宿りが出来るような場所はない。

「…しょうがない」

面倒ではあったが、鞄を漁って奥底に入れっぱなしだった折りたたみ傘を取り出す。
そして鞄を閉めて、傘を開く。

「っ冷たい…」

手に持った金属製の柄の冷たさに思わず声を上げる。

一応手袋を着けてはいるが、指が出ているタイプで更にいえば元々防寒用ではないので指先は冷えるばかりだ。
それでも手を話す訳にもいかないので、時折息を吐きかけたりしつつレッドは冷たい傘の柄を持って道を進んだ。

レッドはしばらくボーッと歩いていたが、ふと名前を呼ばれた気がして立ち止まる。
すると、後ろの方から足音近づいてきて、その主がレッドに話しかけてきた。

「おい!レッド!」

振り向かずとも、それが誰なのか声を聞いただけで解った。

「何?グリーン」

「あ!やっぱりレッドじゃねーか!返事くらいしろよな!」

言いながらグリーンはレッドの横に並ぶ。

「つかさぁ、雨、急に降りだしただろ?俺、傘持ってないからちょっと入れてくれよな!」

そう言って、グリーンはレッドの手ごと傘の柄を握る。

「っ何?」

「いやだから、傘に入れてくれって。ちょっとこっち寄せろよ」

グリーンは更に手に力をいれ、レッド、というか正確には傘を自分に引き寄せる。
重ねられた手は少し熱いくらいで、その体温は冷えきったレッドの手に温もりを伝えた。

「レッドお前、手が冷たすぎねー?元々体温低いのは知ってっけどさ」

「冷え症なんだよ。傘の柄冷たいしさ」

「冷え症ねぇ…。しょうがねぇな、俺は体温有り余ってるからこのままお前に分けてやるよ!」

「ああ、グリーン無駄にテンション高いから体温も同じように無駄に高いんだ?」

「うるせーな!それを言うならお前はいつもボケっとしてるからこんなに手が冷たくなるんだよ!」

「どういう理屈だよそれ」

「いやいや、お前が先に言い出したんだろ?」

等と二人でくだらない言い争いを繰り広げでいると、何か白いものが視界をよぎった。

「うっわ、雪降りだした!どうりで寒いはずだな!」

グリーンのいう通り、降っていた雨がいつの間にか雪に変わっていた。

「あー、なんかまたさっきより寒くなってきた気がする!」

「確かに。…でも、」

「ん?『でも、』なんだよ?」

『グリーンの手が温かいから大丈夫』なんて正直に言えなくて、レッドはただなんでもないと言って僅かに笑った。



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