ブック 短編
□優しい幼なじみ
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無人の教室を尻目に、一人学校の廊下を歩く。
多分、このクラスは今体育の授業中なんだろう。あちこち机の上に制服が脱ぎ散らかしてある。
「あ、鞄開けっぱ。財布見えてるし」
無防備だなー、と思いつつも別にそれを盗ったりすることもなく、俺はいつものように保健室へ向かう。
体調は別に悪くないが仮病を使って教室を出てきた。ぶっちゃけサボりだ。
「先生、体調悪いんで休ませて…あれ?」
保健室のドアを開けていつものように言うが、先生の姿は見えなかった。
だったら勝手にベッドに寝てしまおうかと思ったのだが、生憎3つあるベッドは全てカーテンが閉じられていて使用中らしい。
「…残念」
呟いてとりあえずソファーに座った。
教室に戻る、という選択肢はない。
とりあえず養護の先生が戻るまではこのソファーの上で寝ていようか、等と考えているとドアが開き誰がが入って来た。
先生かと思って一瞬身構えたが、入って来たのが見知った顔だったので俺はため息をついた。
「レッドお前、何人の顔見てため息ついてんだよ!失礼な奴だな!」
「うるさいグリーン。保健室では静かにしろ。病人が寝てるんだから迷惑だ」
そう言うと、口煩い幼なじみはベッドの方を見て「やべっ!」と言って自分の口を塞いだ。
「ていうか、保健室に何の用?グリーン元気じゃん」
俺がそう言うと、グリーンは俺の隣に座って膝を目で示して「これ」と言った。
「授業体育だったんだけど、転んで派手に擦りむいたんだよ」
言われてみればたしかにグリーンの膝は広範囲皮が剥けて大分血も出ていた。
「こんぐらい大丈夫だっつーのに、すっげー血が出てるから周りが『保健室行け』ってうるせーの」
言いながらもグリーンは勝手に脱脂綿やらなんやらを使って手際よく傷口を消毒していく。
そう、意外にもグリーンは怪我の手当てなどが得意だ。
以前、理由を訊いたら「お前のせいだ」と言われた。
確かに、思い返してみれば、小さい頃からしょっちゅう怪我をする俺に、グリーンはブーブーうるさく文句を言いながらも毎回手当てをしてくていれた。
手先は器用なのに態度は不器用な俺の幼なじみ。
本物は優しいんだって俺はちゃんと解ってる。
「で、レッド?」
「うん?」
「なんでお前、俺を枕にして寝ようとしてんだよ!」
「うるさいグリーン。保健室では静かにしろ。病人が寝てるんだから迷惑だ」
さっきと全く同じ台詞を言って、俺は目を閉じる。
グリーンは、何回か俺の名前を呼んだり「すぐ戻るつもりだったのに」とかブツブツ言っていたが、やがてため息をつくと黙って俺の髪を撫でた。
文句をいいつつ結局放って行かずにここに居てくれる。
やっぱり、グリーンは優しい。
終