伝えたかったこの想い

□追い付いて、追い越して
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物心ついた時から、いつだって俺はグリーンの背中を追っていた。

嫌味で自信家で口煩くて、でも実は面倒見がよくて案外心配性な俺の幼なじみ兼ライバル。
いつからだろう、俺の前にその背中が見えなくなったのは。

気付かないうちに、いつの間にか俺はアイツを追い越してしまっていた。
ずっと追いかけていたあの背中は、今はもう見えない。

そして、気付けば俺は誰にも届かないようなとこまで来てしまっていた。
そう、俺を追うアイツが辿り着くことが出来ないほど遠くまで。
周りにはもう誰もいなくて、来た道も解らず引き返すことも出来ない。

誰でもいい、早くここまで来て。
そして俺に帰り方を教えてくれ。



負けた。

カントーのジムリーダーを全て倒し、四天王にも勝ってリーグを制覇した自分が。
同じことを成し遂げたライバルにも勝利した自分が。
修行を続け、あれから一度も負けたことのなかった自分が。

自分より年下の少年に、負けた。

悔しくない、といえば嘘になる。
でも、それ以上に嬉しかった。
まだ、自分と同等、いや、それ以上の実力を持つトレーナーがいたのだと。

先程までのバトルによる疲れなどなんのその。
ボロボロになりつつも自分の手持ちメンバーと勝利を喜びを分かち合う少年を見て、ふと、ありし日の自分を思い出した。

「…ゴールド君、だったっけ」

「はい?」

返事をしてこちらをむいた少年に歩み寄り、頭をなでる。

「え?あ、あの…レッド、さん…?」

戸惑うゴールドにただ一言「ありがとう」と告げて賞金を渡し、俺はシロガネ山の山頂を後にした。

バトルに負けて、何故今まで自分はそう思わなかったのかと不思議に思うほど自然と浮かんできたその考え。

「…帰ろう」

そして久しぶりにアイツの顔を見に行こう。



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