伝えたかったこの想い

□きっかけはそう。でも理由は、
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それなりに昔よりは高くなったものの、相変わらず俺よりやや低い位置にあるレッドの頭。
俺はそこに手を乗せたままそれ以上どうすることも出来ずたた黙っていた。
レッドも特にそれ以上は抵抗もせず、しばらく二人無言のまま時が流れる。

「…俺、負けたんだ」

自らの帽子に視界を遮られたまま、ポツリとレッドが言った。
それがなんでもない事のような調子で。
なんでもないはずはないのに。

「そうか」

レッドがここにいる時点で何となく予想はついていた。
俺がシロガネ山へ行かせた、ジョウトから来たあの少年がレッドに勝ったんだろう。
俺には出来なかったこと。

「だから、帰ってきたんだな」

込み上げてくる悔しさを我慢するあまり、少し口調がキツくなった。
本当は自分が連れ戻したかった、なんてこの期に及んで未練がましい。
自分の情けなさを自覚出来ることが惨めな気持ちに拍車をかける。

再び訪れる沈黙。
俺はまだレッドの頭の上から手を退けることができない。
今の俺に表情を取り繕う余裕なんてないから。

「…きっかけはそれだけど、理由は違うよ」

不意に、レッドが口を開く。
一瞬、なんのことを言っているのか解らずとっさに返事を出来なかった。
そして、それが先程の俺の言葉への返事だと気付いた時にはレッドの頭が俺の手の下から逃れ、目の前にレッドの顔があった。

パサリ、と。
レッドの帽子が地面に落ちる音が耳に届く。

間近で見るレッドの顔は俺の記憶の中のそれよりいくらか大人びていて、だけど変わらない瞳に真っ直ぐ見つめられ俺は動くことが出来なくなった。

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