SS戦国BASARA
□悩むだけ無駄な事がある
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最初告白された時は、思春期にある、同性への憧れと恋愛感情とを勘違いしているだけだと思っていた。
なのにあいつは、勘違いどころか何の迷いもなく、本気で俺の事を好きだと言った。
「何をしている、柚木。」
「いや、別に何もしてないっつーか、正直吃驚してるっつーか…お前、こういうトコ来るキャラだっけ?」
「嫌なら、帰る。」
「え!?待て、待って!嫌じゃない!嬉しいから、帰ろうとするなって!」
石田三成という男と付き合って、1年が経つ。
お互い男という事もあってか…やる事はやった。
不器用にお互いの感情をぶつけあい、幾度も無く体を重ねた。
それなのに、甘い雰囲気なんてありゃしない。
デートをするにも、お互い人混みが苦手という事もあってか、家の中でゴロゴロ。
学校の周りをぶらぶら。図書館でしみじみ読書。
それぐらいの事しか出来ていない。というかやっていない。
「出掛けたい所があるって言うから、図書館だとばっかり思ってた。」
「芸の無い発想だな。」
「余計な御世話だ。たっく、誰の所為だと思ってんだよ…」
「貴様が疲れたと言って家から出ないのが悪い。」
「う…」
日曜日の午後。
社会人も学生も休みのこの曜日に、俺と三成はいつも会う約束をしている。
出掛ける気力もなく、お互い、どちらかの家でのんびり。
なんていつも通りのデート?を想像して、それでも三成に会えるからまあいいか、なんて乙女思考になっている矢先の事だった。
急に三成が、今度の日曜日は出掛けたいところがある。
なんてメールを寄こすから、ああ今回は図書館か美術館に行くのか、それもまた楽しみだ、なんて思っていたのに。
これは何の前触れか。
三成に連れて来られたのは、最近出来たばかりの、小さな遊園地だった。
「でも、どーして急に?三成、こういう場所、苦手じゃなかったっけ?」
「ああ。無駄にはしゃぐ子供を見ていると、無性に刻みたくなる。この忙しない音楽も腹立たしい。」
「何で来たんだよ…」
「うるさい。」
出来立てほやほや、という事もあってか、小さいながらも遊園地には人がごった返している。
元気に無邪気に走り回る子供。
それを見て和む大人。
周りも気にせずチュッチュしてるバカップル。
どう見ても、俺と三成は浮いていた。
「行くぞ。」
「え?」
「貴様の憂さ晴らしに付き合ってやると言っている。早くしろ。」
「憂さ晴らしって何の事…っておい、三成!」
ぐい、と勢いよく手を引かれ、よたりと足を絡ませながら三成の後を着いていく。
「離せ、恥ずかしいだろ…っ」
正直に言おう。
俺は単純に三成にほだされ、付き合い始めたわけじゃない。
こいつに、こいつの真っ直ぐで不器用で優しいところに、本気で惚れたのだ。
…手を握られるだけでもドキドキする。
「おい、三成!」
「黙れ。拒否は認めない。」
「恥ずかしいって言ってるじゃん!拒否なんてしてない!」
手を離すどころか、三成はさらに握る手に力を込めてくる。
離すつもりなどない、と言いたいらしい。
俺は指が折られる前に、その手を握り返して、引っ張られる体勢から肩を並べる位置へと移動した。
俺よりも頭一つ分ほど高い位置にある三成の顔。
黙っていれば、その髪型でさえなければ、相当なイケメンだ。
俺が女だったら、至極の美人なら、それはきっと絵になる。
「(俺が、女だったら…)」
それは小さな悩みであり、デートの時に外に出ない一つの要因だ。
男二人で映画館。
男二人でショッピング。
男二人で…ラブホテル。
行けるものか。行けるはずがない。
俺達の関係を知っている、ほんの一部の人からは、考えすぎだと何度も言われていた。
しかし、世間はそう甘く見てはくれない。
男同士が、手を繋いでいる。
学生同士のおちゃらけた、和気あいあいとした空気などない。
人の目というのは、口よりも多くの言葉を発するものだ。
ずっとこのまま、なんて訳にもいかないのだろう。
いつかは、三成の将来の事を考えるのなら、突き放すべきなのだ。
「乗るぞ。」
「……、え?」
「何をしている、順番だ。」
俺から、この手を離すべきなのに…
一度温もりを、熱を知ってしまった今、離す事が出来ない。
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