SS戦国BASARA

□単純奇跡物語
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生が感じられないほど青白い顔をした上司に見覚えはあった


奇妙な髪型

独特な口調

大きな背中


見間違いなどするわけがない



「行くぞ」



主語も述語すらもない会話


輪廻転生をして

私がこの新たな世に生を授かり

前世の記憶を思い出すにはそう時間はかからなかった

殿のこと…

石田三成のことだって

護れなかったこだって

すべて昨日のことのように鮮明に覚えている



「石田さん、あの、」

「何だ早くしろ。」

「私、返事してないんですけど。」

「命令だと言った。貴様の都合など知るか。」

「……仕事残ってるんですけど。」

「明日やればいい。」

「明日休みじゃないですか!」



だからって

また同じ時代に同じように生を授かるだなんて

そんな奇跡が起こるものか



「貴様は輪廻を信じるか。」

「…石田さんは信じてるんですか?」

「愚問だ。」

「自分で質問しておいて…」

「私は、信じざるを得ない。」



石田さんは……

殿は私の肩を掴み、そのまま身体を壁に押し当てた。

鈍い痛みに視界が歪む。



「答えろ、柚木。」

「ッ、」

「貴様は覚えているのか、いないのか。」

「っ、なんの事ですか。」

「惚けるな。私のことを、この石田三成という存在を、」



覚えてはいないのか、と

殿は消えそうな声で言った。



「…輪廻転生なんて、あるわけないじゃないですか。」

「何故そう言い切れる。」

「だって、…」



こんな単純に

奇跡がおこってたまるものか。


あの日、関ヶ原の日

あれだけ奇跡を願い続け

彼の生を願い続けたのに



「奇跡がこんな簡単におこるなんて、理不尽だ。」



やるせなかった。


願い続けたのにもかかわらず起こらなかったコトが

こんな簡単に起こるなんて

殿を護れなかった私の願いが

こんな簡単に叶うなんて



「私はあの日、貴方を護りたかったのに…っ」



ありえない



「…覚えているなら始めからそう言え。」

「覚えてない。」

「柚木」



ああ、いつの日か

こうやって殿の目を

まっすぐに見つめたような



「……降参。覚えてます、覚えてますよ。昨日のことのように鮮明に。」

「なら始めからそう言え」

「嫌だったんですよ」



ずっと

殿に生きてほしいと願った日

殿は私の前から消えた


ずっと

殿に会えればと願った時

殿は私の前に現れた


こんなにも単純に

奇跡がおこるなんて

また

殿に会えるだなんて



「癪じゃあないですか。あれだけ奇跡を信じてたのに…認めてやるもんかと思って。」

「くだらん。」

「…そう言うと思いました。」



何も変わらず殿は存在している

城はすたびれ

高層ビルが立ち並び

奇跡が奇跡のように思えず

世界はこんなにも変わり果てたのに



「柚木、もう一度だけ言う。」

「え、」

「私と付き合え」

「………石田さん、私に拒否権は」

「ない」

「ですよね」



ああ

主語も述語も私の都合すらも

どうでもいいというのが

殿だ




「…おい、貴様にそう呼ばれると落ち着かん、変えろ」

「そう?」

「“石田さん”だ。」

「それは仕方ないじゃないですか。流石に会社で殿は…」

「三成だ」

「み?え、み、三成さんと呼べと?!」

「違う!三成と呼べと言っている。」

「呼び捨て!?」

「私が許可する」



時代が変わって

主従関係はゆるくなった

でも殿は私の上司だ

そんな気安く呼べるわけがない



「でも…」

「私のことが好きか?」

「え?」

「好きか嫌いか、どっちだと聞いているんだ。」

「…す、好き、です。」

「なら貴様は私の恋人だ。何か不満があるなら言ってみろ。言い訳だけは聞いてやる。」



ああ、この人は本当に…



「文句があるようだな。なら、切り捨てる。」

「も、文句なんてありません!ありませんとも!」



どれだけ私の心を持っていけば気が済むんだ。



「殿…殿はあれですか、神様か何かですか」

「は?ふざけるな、神は今も昔も秀吉様だ。」

「…そうですよね」



こんな単純に

300年越しの恋までもが

叶ってしまうだなんて



「行くぞ」



掴むことすら叶わないと思っていた手を

こんなにも簡単に掴めるなんて



「せめて、三成さんで勘弁してください。」



なんて単純な奇跡なのだろうか



「柚木、覚えておけ。私を裏切ることは許さない。」

「わかってますよ。」



奇跡も満更ではない。




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2013/1/27 加筆修正

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