SS戦国BASARA

□しゃんぷう
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ザビー教が終了した後。
いや、まあ何時の間に終了したのかは覚えてないけど。

しゃんぷう、とやらがわからない、と私が言うと
宗麟様は「馬鹿ですか?」と言い、よくわからない液体の入った筒を渡してきた。



「これが…しゃんぷう?」

「そうですよ。」

「へぇ…不思議な液体ですね。」



黄色くて妙な雰囲気をかもちだす液体。
少し振ってみると、その液体がドロドロとしているということが見てわかる。

だが、見た目とは裏腹に、その液体からは嗅ぎ慣れた甘い香りがした。

ふわりと爽やかな柚の香り。
我が主となっている宗麟様からいつも香る匂いだ。



「全く…シャンプーも知らないで、お前はそれでもザビー教の一員ですか?」

「(一員じゃないんだけどなあ…)申し訳ございません。」

「…謝れば済む問題じゃありません。」



はあ、と息を洩らした宗麟様は私の手からしゃんぷうと取り上げた。

これはザビー様に貰ったもので…
と、しゃんぷうを愛おしげに見つめながら、昔話に花を咲かせる。

水を差すのは気が引けるが、これは長くなりそうだ。
長話は御免。



「ところで、宗麟様!その、しゃんぷう、とやらは一体何に使うのですか?」

「………お前…」

「ほら、私、馬鹿ですから。是非宗麟様に、その使い方を教えていただきたいなあ、と…」



苦しい、が、我慢、我慢。

宗麟様はしばらく私に疑い深い目をむけていたが…
まあいいでしょう、と一呼吸置いて、再びしゃんぷうを私に手渡してくれた。



「これは、頭を洗うのです。」



宗麟様は当たり前のように言った。



「……頭を洗う?これで?」

「そうです。」

「このヌメヌメした液体で頭を洗うのですか!?」

「だから、そうだと言ってるでしょう!?」

「大丈夫なんですか?!」

「大丈夫に決まっているでしょう!?リンスも使うと、髪の毛サラサラになるんですよ!」



香りも豊富です!と宗麟様は棚に入ったしゃんぷうを目の前に並べた。
柚の香り、花の香り、木の香り、よくわからない甘い香り、無臭、その他色々…

どうしよう、匂いで頭が痛くなってきた。

そもそも、頭を洗うのなんて、石鹸でいいと思うのは私だけだろうか。
むしろ水被るだけでもいいよ、湯に浸かれるだけでいいよ。
なんて、宗麟様には口が裂けても言えないけど。



「……良い匂い、ですね。」

「ザビー様がくださったのです。当たり前でしょう?」



私がそう言うと、宗麟様は誇らしげに笑っていた。



「…ヌメヌメですね。本当にこれで…?」

「失礼な奴ですね…僕はそのヌメヌメした液体で、頭を毎日洗っているのですよ。」



いつも頭に乗っている帽子をとり、髪をふわふわと揺らす。



「どうです、このサラサラ!文句を言うなら使ってからにしなさい。」

「す、すみません…」



素直に謝ると、宗麟様は大袈裟に息を吐き、ふと、何か思いついたような表情を浮かべた。

にやり、と三日月型に口角をあげる。
まるでとても迷惑な悪戯を思いついたかのような、そんな顔だ。
私の中に有る本能が、警報を鳴らしている。



「柚木、風呂です。」

「え?」

「風呂。」

「…まだお昼ですよ?」



急に風呂に入るだなんて…



「お前も、僕と一緒に入るのです。」

「え!?は!?一緒に?!」

「実践です。この僕が、直々にシャンプーをしてあげます!」



実践…だと…!?
そう言うと無駄に苛々するぐらい爽やかで可愛らしい笑みを宗麟様は浮かべた。
器用に親指を立てながら。

いや、待て、待ってください。

忍びがその主と一緒にお風呂に入る?
しかもしゃんぷーとやらを主にしてもらうだって?



「行きますよ、柚木。」

「……マジデスカ」



柚木の様な下賤な者とお風呂だなんて、嫌です、汚らわしい!

宗麟様ならきっとこう言うだろうに…
いや、実際にこんなこと言われたら、ちょっと傷つくけど。

まさか宗麟様の方から、お風呂に入ろうと言われるなんて。



「何をしているのですか。全く、世話の焼ける。」

「(普段なら、その言葉をそのままそっくり返してやりたい。)」



いつまでも呆けている私を見かねたらしい。
宗麟様は少し恥ずかしい、といった表情を浮かべつつ、私の手を取った。

子供体温…温かい。



「宗麟様、あの…」

「何です?僕とお風呂に入るのが嫌だなんて、言いませんよね。」

「いえ、そういう訳では…ないのですが…」

「なら別に問題無いでしょう。」

「宗麟様…!」



私は忍びとして、数々の任務をこなしてきた。

人なんて何人殺めたか覚えてやしない。
寝首をかいたことだってある。
御金のためならばと、自分の身すら惜しいなんて思わない。

それと比例するように、多くの傷を体に負った。



「私、下賤な忍びですよ?」



背中、胸、肩、足…
生々しいわけではないが、やはり大抵の人はその体に驚く。



「ふん。お前の様な下賤な忍びは、この僕が綺麗にしてあげますよ!」



独眼竜的に言えば、これはジョークというやつだろう。

そんなに歳は変わらない宗麟様。
だけど、まだそういったものに免疫の無い人に、私の体は刺激が強いと思うんだけど。



「宗麟様、しゃんぷーとやらのやり方を教えてくだされば、私は自分で、」

「この僕が洗ってやると言っているのです。お前は黙ってついて来なさい。」

「ですが、その…不安で。」

「失礼な!心配せずとも、髪くらいちゃんと洗えます。」



そういう意味で言ったのではないのだが。



「傷だらけなんですよ?私の体。」

「だから何だって言うのですか。」

「いや、怖いとか、気持ち悪い思いをさせたくないから、その…」



歩くスピードはそのままで、宗麟様はこれまた大袈裟にため息をつく。



「その怪我は、お前が生きてきた証です。」

「…宗麟様。」

「宗茂が、前に、体の傷はそう言うものだと言っていました。
 僕にはよくわかりませんが、お前のその傷は、何かを護った証なのでしょう?」



気持ち悪くなんてありませんよ、と。
今まで聞いたことのない、優しい声で、宗麟様はそう言ってくれた。

素直な宗麟様の言葉だから…
お世辞ではないと、慰めではないとわかったから、こんなにも心が締め付けられるのだろうか。
嬉しさで、涙が込み上げてくる。



「宗麟様、」

「何です。まだ何かあるのですか。」



可愛らしい目と目が合う。

ああ、どうしよう。
なんだか気恥かしくて、嬉しくなって、思わず頬が吊りあがってしまう。



「しゃんぷう、とやらは、宗麟様と同じがいいです。」

「僕と同じ?」

「はい。」

「…何で、僕なんかと同じものを…」

「宗麟様が好きだから、宗麟様とお揃いがいいです。」



宗麟様の顔が一気に赤くなった。
馬鹿なことを言うんじゃありません!と言いながらも、握られた手に力が込められている。

思わず笑みをもらすと、宗麟様はむぅ、と不服そうに頬を膨らました。
そのまま強引に手を引っ張り、歩く速度を速めていく。



「お前は黙って僕に洗われなさい。」

「…了解しました。」



時折すれ違う同僚の頬笑みに、私は恥ずかしくなり顔を下に向けた。

風呂上がりの、お揃いの香り。
私にシャンプーをする習慣が身に付いたことは、また別の話。





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