SS戦国BASARA

□切掛なんて曖昧で
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人里離れた山の中。
誰も寄りつかない忍の隠れ家。



「私の忍びになれ」

「(誰この目つき悪い人。)」



というのが私が彼に抱いた第一印象。

私は驚きのあまり、口に運ぼうとしていた魚の身を、ポロリと床に落してしまった。



「あーあ、勿体ない。驚かさないでくださいよ、もう。」



何が気に喰わなかったのか。
彼は不貞腐れた顔で、チッと小さく舌打ちをした。

いやいや、そんな舌打ちとかされても…
いきなりあんなこと言われたら誰だってびっくりしますよ。



「どちら様で?」

「貴様に名乗る義理は無い。」

「(いやいや、名乗ろうよ)」



たいていの人は自分の名前を名乗るのに、不思議な人だ。
こんなヘンテコリンな依頼人は…久しぶりかもしれない。

似たような人は前にも居た記憶がある。
なんか緑色の、オクラのような兜がとてつもなく印象的の…
…まぁ、その人は置いといて。

目の前のお侍さんは、意地でも名乗らなさそうだ。



「どうやってココ調べたか知りませんが、私個人に依頼されても契約は無理ですよ?」

「……何?」



おお、やっとこっち見た。
切れ長の目に私が映っている。



「戦忍には戦忍なりの都合があるんです。」

「貴様の都合なんか知るか。」

「……はい?」

「貴様の都合なんか知らんと言っている。」

「知らんって…あのですね、お侍さん。私は今、徳川軍に…」

「倍だ。」

「ば?」

「家康の、あの男の倍払う。」



この人は正気だろうか。

徳川軍に所属してからの賃金は半端ない金額だ。
そのおかげか、今では狩りをせずとも、このすたびれた裏山で贅沢な暮らしを満喫している。

その賃金の倍を払うだって?



「金で私とあの方が言う“絆”を断ち切れると?」

「くだらん。絆など所詮、あいつの無意味な戯言に過ぎん。」

「ああ、それは確かに、同感です。」

「は?」

「絆って、人によってはかなり脆いと思うんですよね。」



そんな金で釣られる…忍びなんですよね、私。



「面白い。貴様、今すぐに私の忍びになれ。」

「いいですよ。でも、倍で大丈夫なんですか?相当な額ですよ?」

「構わん。」



これが石田三成という武人の下で働くことになったきっかけ。

これが石田三成という一人の男を愛することになるきっかけ。



「おい、貴様」

「柚木です。」

「…チッ、石田三成だ。」

「石田三成、様…(て、まさか、あの凶王!?)」

「柚木。」

「はい!?」

「私は裏切りを許さない。しっかりと肝に命じておけ。」



自分は徳川を裏切らせて何を言い出すかと思えば。



「(それ、忍びに言っても意味ないと思うんだけどな。)」



私の苦笑いのわけを知ってか知らずか、三成様は怪訝そうな顔を浮かべられた。




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