SS戦国BASARA

□しゃんぷう
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「みなさーん!ザビー教の時間ですよ。」



くるん、と内巻きの髪を帽子の下からのぞかせて
まだ幼さの残る風貌の我が主、宗麟様は今日も元気に声を張り上げた。

私がザビー教に囚われて早3ヶ月。

まあ傭兵忍びの身である私ですから…
囚われる、というよりは雇われていると言った方がいいのかもしれませんね。
賃金は驚くほど少ないけど。



「柚木、柚木は何処ですか。」



天井裏に隠れてやり過ごそうかと思ったが、どうやらそういうわけにはいかないらしい。

わざと音を立てながら宗麟様の背に立つ。
すると宗麟様はびくりと肩を震わせて、いきおいよく振り向いた。

その時の、ぶわ、という風と共に、ほのかな柚の香りが鼻に付く。



「毎回毎回変なところから…」

「いやあ、失敬、失敬。」

「そう思うならもっと普通に現れなさい。これだから忍は……」



ぶつぶつと文句を言う宗麟様から香る、ほのかな柚の匂いに酔いしれていると
グ、と押しつけられるような形で、分厚い本…信書が手渡された。

これは…ザビー教の布教本だろうか。



「柚木、お前も当然、参加するのですよ。」

「お言葉ですが宗麟様。私は雇われの身であって決して信者では…」

「何か言いましたか、柚木。」

「…………いえ、何も。」



目が笑っていない。
これぞ、宗麟様お得意の強制参加というやつです。



「……はあ……」



溜息なんて嫌でも出る出る。
まあそんな溜息すらもこの群衆の中では全くもって意味がないというか。
むしろ聞こえていないと言うか。

ああ!ザビー様!と叫ぶ宗麟様の声で溜息は掻き消された。



「…宗麟様は何時も良い匂いがしますね。」



聞こえてないだろう、と思って言ってみる。



「お前は変態か何かですか。」



ザビー様の壁画に夢中だと思っていたら大誤算。
私の言葉はバッチリと聞こえていたらしい。

しかも、その言葉によって、かなり変態だと思われているようだ。

これはやばい。
自分自身の築き上げてきた名誉が危ない。



「いやいや、ただ、先程、柑橘系の香りがしたものですから。羨ましいと思いまして。」



そうですか、とそっぽを向く顔は満更でもなさそうだ。



「まあ、僕はお前の様な下賤の者とは違って、毎日シャンプーをしていますからね。」

「しゃん…?」

「羨ましがるのも当然でしょう。リンスもしているのですよ。」

「りん…?」



南蛮用語、ちんぷんかんぷん、恐るべし。






【しゃんぷう】







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