SS戦国BASARA
□小指の約束
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まぁ、その、なんだ、と曖昧な言葉を並べながら、家康様は私と向き合うように座り直す。
「お前は、あの時の約束を覚えているか?」
あの時の約束。
覚えていないわけじゃないが、私は首をどちらにも振ることができなかった。
「お前も対外素直な男だな。」
「へ?」
「大方、約束したことは覚えているが、その内容は覚えていない、といった感じだろう?」
ニッと笑顔を見せた家康様は、どうだ?と言わんばかりに私の顔色を伺っている。
主に自分の心を見透かされるなんて、忍失格もいいとこだ。
「申し訳ございません…」
「謝らないでくれ。むしろ、ワシとしては約束していたことを覚えていてくれただけで、感謝したいぐらいだ。」
「ですが、」
「いいんだ。」
いいんだ。とまるで幼い子供に言い聞かせるように繰り返す。
「柚木。」
「はい。」
「平和な天下を造る。それがワシの夢だ。」
「…家康様らしいです。」
「だろう?」
もしワシがこの夢を叶えることができたなら…、とあの時と同じように言葉を紡ぐ。
「好きだ、柚木。」
「…っ」
その後に続くはずだった言葉はあの時とは違った。
覚えていないはずなのにどうしてわかるんだ。
なんて言われたら答えようはないが…忍の勘、とでも言っておこうか。
「ワシと結婚してください。」
ああ、なんて滑稽な光景だ。
「家康様。私は忍で…」
「おっと、その台詞は聞かんぞ?」
そう言って家康様は私の腕をぐっと引っ張り、胸元に顔を埋めるように抱きしめた。
冷静な顔色とは裏腹に、心臓は早鐘のように鼓動の音を響かせている。
はたしてこれはどちらの心音なのだろうか。
「約束は守ってもらおう。」
「…忍びは裏切りますよ?」
「構わん。ワシが柚木を好きなことに変わりはないからな。」
嬉しい、というかなんというか。
恥ずかしくて、もどかしくて、心臓が押し潰されそうな感覚に包まれて。
「…あつい、です。」
「ハハ、ワシの体温かな。」
返事するのは少し、シャクなので。
返事の変わりに家康様の背中に腕をまわし、ギュッと抱きかえした。
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