とある

□04
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案の定、というか、予想通り、というか。
料理ができない俺は、料理の代わりに、朝食(パンを焼くだけ)とその他の家事を手伝う事となった。



『柚木、一つ疑問があるんだが。』

『ん?』

『貴様は今までどうやって生きてきたんだ?』



なんて真顔で言われた時は本気で泣こうかと思った…

トーストにパンをセッティングし、インスタントコーヒーを手に取る。
蓋を開けると珈琲の匂いが鼻につき、空腹の腹を鳴らした。

お湯を注いで混ぜるだけ。インスタントは素晴らしい。



「あー、月曜日なんて来なけりゃいいのに。」



生徒と同居を始めて三日目。

今日は、同居を始めてから初めての学校だ。
竹中先生には、くれぐれもばれないように、と言われているからか、少し緊張してしまう。

…まあ、あの二人ならボロは出さないと思うが。



「柚木、おはよう!」

「相変わらず元気だな、お前は。」

「そりゃあ、柚木の顔を朝一に見れるのは嬉しいからな!」

「そーゆーのは、好きな女口説くときに使え、アホ。」

「むう…」

「いいから、先に服着替えて準備して来い。」

「はあい。」



同居生活を初めて見て、いくつか解ったことがある。

まず一つ。家康は変わらない。
まあ昔からずっと変わらない気もするが…
学校だろうが、家だろうが、お構いなしにくっついてくるし。

懐かれている、と思えば、それも嬉しいものだが。



「……ふあ、」

「あ、三成、おはよ。」

「……ああ。」

「(可愛い…)ボタン、かけ違えてるぞ。」

「……ああ。」



まだ夢現なのか
目をこすり、髪を跳ねさせたまま、わずかに頷き、三成は椅子の上に座る。

やはり、一緒に生活をしていると、理想と現実というものが出できた。
一度、中身を見てしまうと、そのギャップに戸惑ってしまう。

学校ではあんなにきっちりしているのに。
家の中だと気を張らなくて良いからか、少し服装も乱れているし
心なしか、雰囲気が柔らかく見える。

そのギャップを良しとするか、どーするか…




「(…惚れたもん負けって感じだよなあ…)」



二つめ、石田三成。
この男は正直言うと、よく解らない性格をしている。

料理ができなかったときの三成の反応…
正直、すごく、怖かった。いや、でもちょっとかっこよかったかもしれない。

あまり感情を表に出さない性格だと思っていたのだが
案外、三成は感情を表に出している。
それは表情にも、態度にも、よく見ると、一つ一つの動作に、違いが見える。



「あ、やべ、焦げた。」



焦げたトーストを自分の皿に載せ、再びトースターをセットしていく。

階段をどたどたと駆けおりてくる音に
俺は身をひるがえし、フライパンを構えた。



「柚木ぃー!!」

「失せろ。」



抱きつかんばかりの勢いで突進してくる家康をフライパンで殴りつけ
トーストが焦げる前にトースターの電源を切った。

ほんのり狐色。うん、上手い事焼けた。
これなら、三成にも文句言われないだろう。

皿に並べ、珈琲を入れ終わった瞬間、三成がようやく顔を上げた。

ぼんやりとした表情…まだ眠いのだろうか?



「柚木、今日は一緒に帰らないか!?」

「馬鹿、何言ってんだ。同居がばれたらどーすんだよ。」

「いいじゃないか!ワシは柚木とラブラブしたいぞ!」

「俺はしたくない。」

「むうう…み、三成は、ワシとラブラブしてくれるよな?」

「……」



うんざり、という表情を浮かべ、三成はトーストを齧る。



「三成ぃ…」

「貴様の相手などしておれん。」



本当に相手にしたくないのだろう。
最後の欠片となったパンを口の中に頬り込み、三成はソファーの下に置いてあったカバンを手に取り、足早に玄関へと向かう。

もうそんな時間か、と思って時計を見るが…



「おい、もう行くのか?」

「ああ。」

「三成は人混みが苦手なんだよ。」



何時の間に仕度が済んだのか。
いそいそと玄関にやってきて、家康も靴を履いている。

一緒に行くのか、と問うと、家康は朝連だ、と三成はぶっきらぼうに答えた。

…なんやかんやで、三成と家康は仲が良いのだろうか。



「いってくる。」

「いってきまーす!」



玄関に並ぶ二人の背を見送りながら、俺も着替えようと身を翻す。

一気に、二人の子供、否、弟が出来た気分だ。
こうやって、玄関で見送って、食器のあとかたずけをしながら、今日の予定を頭の中で組み立てていく。

…学生よりも遅く学校に行く教師って、どうなんだろう…
冷静に考えると、俺ものんびりしちゃいられない。



「…急ごう。」



誰に言うでもなく、声に出す。
後ろ髪が跳ねているのが気になったが…構わず俺は、玄関の扉を開けた。






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