とある

□04
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夏の暑い日差しが容赦なく突き刺さる。



「あっちぃ…」



学生に負けじと、早く学校着た俺が馬鹿だった。

当然のように、職員室には誰もいない。
誰もいない職員室に冷房などついているはずもなく…俺は窓のふちに座り、風に吹かれている。

学校に住んでいる黒田先生の管理室なら、涼しいかもしれないが…
流石に、朝一から尻を触られるのは勘弁だ。



「つーか、冷房が自動で付く時間っていつだっけ…」



ここの冷暖房設備は、自動となっている。
確か、つくのは8時、のはずだが…時計は7時。びっくりするぐらい早い時間だ。

ふと、外に目を向けて見ると、グランドで生徒が走り込みをしている。
朝連、と称していつも早くから学校に来ている。
こんなに暑いのに、あんなに走り込んで大丈夫か、あいつら…

ぼんやりとその光景を眺めていると、その中にいる家康に気がついた。



「ああやって真面目な顔してると、あいつも中々良いんだけどなー…」



ガラリ、と職員室の扉が開かれる。



「三成…!」

「柚木?来ていたのか。」




少し不思議そうに眉を顰めながら、三成は慣れた手つきで、日誌と教室の鍵を取り、こちらに目を向ける。



「早いな。」

「…まあ、一応教師だし?」



本音を言えば、年上として威厳が無い、と感じたからだ。

三成にはそれがわかっているのだろう。
苦笑を浮かべつつも、そうか、と一言返してくれた。



「あ、てか、学校で名前呼びはまずいかな?石田君。」

「…気持ちの悪い。授業中でなければ、別に構わないだろう。」

「かな。あ、てか、お前は先生って呼べよ?」

「一応気をつけておく。」

「一応かよ!」



いかん、いかん…
学校の中なのに、どうも調子が狂ってしまう。
今まで三成との間にあった壁が取り払われたような感覚だ。



「柚木、」



名前を呼ばれ、顔を上げる。
思っていたより三成が近くにあったから、吃驚してすぐに顔を背けてしまった。

ぐらり、と身体が揺れ、窓の外へと身体が傾く。
慌ててカーテンに掴まろうと腕を伸ばすと、三成は目にも見えぬ速さで俺の腰を掴み、ぐい、と近くに引き寄せた。



「馬鹿者!何をやっている!」

「(あ、危なかった…っ)」



つう、と背中に冷や汗が流れる。

三成の腕から離れ、ふう、と息をつき、壁に凭れかかる。
三成は呆れたように息を吐きながら、俺の頭を日誌で叩いた。



「いで、」

「…誰も貴様など取って食おうなどと思っておらん。」

「(…恥ずかしい…!)うるさいな!ちょっとびっくりしただけだろ!」



三成の手が、俺の後ろ髪へと伸ばされる。



「…髪、跳ねてるぞ。」



跳ねを少しでも抑えようと、三成の手が俺の頭を撫でる。



「(やばい、これは、やばい…っ)さ、さんきゅ、な。」

「ああ。」



三成の手がそっと離され、俺が顔を上げた時には、三成は職員室の扉を開け、ここから出て行ったとこだった。

…後ろ髪は未だに跳ねたままだ。
緊張が一気に解け、へなへなとその場に座り込んでしまう。

蒸し暑い教室の中、さらに上昇した体温を少しでも下げようと、壁に凭れかかる。
それでも、熱は下がるどころか、時間が経つにつれ、どんどん上がっている様な…



「(どんな顔で会えばいいんだよ、くそ…っ)」



後一時間後には、教室で顔を合わせるというのに。

がらり、と職員室の扉が開く。



「お、おはようございます!」

「おや、柳瀬先生早いね。」



慌てて床から立ちあがり、俺は気持ちを切り替えるべく、笑顔で声を張り上げた。




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