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□死亡シチュエーション
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「なあ、知ってるかヅラ」
「ヅラじゃない桂だ。…何がだ?」
「人間が死ぬ時最期に残る五感は、聴覚なんだとよ」
「ほう……それで?」
「……あの人は、最期に俺達の悲鳴を聞いて逝ったって事だよな?」
「……そう、だな」
……唐突過ぎたかな?
ヅラは少し悲しそうな顔をしてしまった。
でも、確認しておきたかった。
策の向こうで天人に殺されたあの人は、最期に俺達の声が聞こえていたのか。
あの時先生は微かに微笑んでた……ような気がした。
俺と桂と高杉の声が聞こえていたから?
「あの時先生……笑ってたよな」
「ああ……」
「何でだと、思うか?」
無理難題、しかも思い出したくも無いであろう場面の質問に、桂は答えてくれた。
「あの人は優しいお方だから、あの理不尽な処刑の中でも幸せを感じていたのかもしれないな」
「どういう意味だよ?」
「あの人の視点からすると、俺達が先生の為に泣いて叫んでいた事を、嬉しく思っていたのかもしれない。自分が死んでいく中であんなにも悲しんでくれる人達がいるってな」
「……そうだと良いな。少なくとも、俺達を安心させる為に無理して笑ってほしくはなかったな」
身体の感覚も無くて、何も見えなくなった暗闇の中、唯一残った聴覚。
暗闇の中響き渡った俺達の悲鳴を聴いて、先生は何を思ったかな。
「俺も、先生みたいに死にてえな」
「処刑でか……?」
「んな訳ねえだろ。……あの時の先生みたいに、死ぬ時俺は最期まで笑ってて、俺の最期を見取ってくれる人がいたら、俺の事を思って泣いていてほしい……俺には叶わねえ願いかもしれねえけどな」
幸せに生きて、死ぬ時には人生を思い返して、幸せだったと笑って死にたい。
その人生の最期を、一緒に過ごしてくれる人はいるのか。見送ってくれる人はいるのか。
もしいたとしたら、俺の事を思って泣いてほしい。
俺が死んでしまう事を悲しんでほしい。
……でも、昔戦場で刀を振り回していた身だ。
こんな自分には、孤独死がお似合いなのかもしれない。
「……多分、叶うぞ。その願い」
「……へ?」
今まで黙っていた桂が、口を開き、思ってもいない事を言われ変な声を出してしまった。
「新八君やリーダー、お妙殿やお登勢殿に真選組の連中も、貴様が死んだら悲しんでいると思うぞ。特に新八君とリーダーは、ずっと傍にいてくれるだろう」
「……泣いてくれっかな」
「それは貴様が信じなければ分からんだろう。……なに、最期くらい高杉と坂本の馬鹿共を引っ張ってきてやろうか?」
「ははっ、賑やかになりそうだな」
まだいつ死ぬか分からないのに、はっきり言って俺は不安だった。
先生が処刑された所を見た時から、"死"という名の一生の別れが怖く仕方なかったんだ。
最期に残る五感は、聴覚。
誰かが傍にいるのを感じながら人生を締め括るのは、凄い幸せな事だよな。
「俺が死んだら、お前らは泣いてくれるか?」
「……俺が先に死ぬかもしれないだろう。それに、まだ先の話だ」
「あー……そーだな」
変な事聞いちまったな、なんて思っても後悔はしなかった。
俺の最高の死亡シチュエーションは、
自分は笑ってて、回りは泣いて俺を送り出してくれる
そんなシチュエーション。
―END―
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