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□決別の時
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戦は終わった。
















「……寒い」


雪がちらほら降っている荒野の道の途中で、俺は体力に限界を感じ立ち止まった。

着流し一枚でこんな気候の中歩いて、俺は無意識に死を望んでいるのか。
それすらも自分自身分からない。

ただ、どうしても行きたい場所があった。
今まで近付くことさえ躊躇い、一度も足を踏み入れたことも無い場所だ。

仲間の元を去る間際にヅラからその場所の行き方を聞いていた。
ヅラの話によれば、あと少しで目的地に着くようだ。



「……謝んねえと、な」


俺は腰に刺していた刀の柄を握り込み、歩を再開した。










幕府の降参、という形で戦は幕を閉じられた。

幕府は最前線で戦っていた俺らの事なんて見て見ぬふり。
戦いの支援なんて全く無かった。別に期待していた訳ではないが。


幕府にとっちゃ、無駄な戦なんだろう。
だが戦中に死んでいった奴らの命は、無駄にしちゃいけねえだろ……。









「ここか……」


目的地にたどり着いた。

ただの荒野だ。
そこに幾つかの小さい土の山があり、使い古した刀が一本ずつ刺さっていた。



――戦死した、仲間達の墓場だ。



端から見れば、雪が一面に積もった地面に刀がぶっ刺さったようにしか見えない。
それくらい、簡単に出来た墓だった。



護れなかった仲間達。

今までここを訪れなかったのは、死んだ仲間に申し訳無い気持ちがあったから。
俺がここに来たら、安らかに眠っていた仲間達が目を覚まし俺を拒んでくるんじゃないかと思ったから。




でも今日は来た。
謝りたかったから。



「お前らのこと、護れなかった……。本当にすまねえ……!!」



逝った仲間の顔は全部覚えてる。
忘れられる訳がねえ。
これから俺が全部、背負い込んでいくんだ。















「……一つくらい、荷物下ろしても良いよな…?」



仲間は背負ってく。
ただ俺にとって一番苦しくて重い荷物は、墓場に棄てようと思う。




俺は仲間達の墓から少し離れた所に、掘りかけの小さな穴を見つけた。

おもむろに刀を取り出し、鞘をそこに埋めた。
他の墓とは違う、一回り小さい山が出来た。






「……完成」


そう呟きながら俺はその山に抜け身の刀を刺し、立てた。



遺体が埋まってない墓の完成。

強いて言えば、ここを"白夜叉"の墓場にしたい。
戦が終わった今、もう"奴"が生きる意味は無いのだから。



「もう苦しむ必要も嫌われる必要もねえんだ……ここで大人しく寝てろや」


目の前でしゃがみ、そう呟いた。













銀世界の中で、俺は戦争中にいた"俺自身"に別れを告げ、宛てもなく再び歩き出した。



―END―


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