ポケスペ

□終わり
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「仮に。例えば、な、もしもの話」

ゴールドは仮定形の接続詞を三段も重ねて言った。
いつものようにゴールドがオレの家(正確に言えばオレの隠れ家の中の一つ)に押し掛けてきて、いつものように何をするでもなく肩に寄りかかってぽーっとしていた。
それがいつもなのだから、唐突すぎる会話の始まりもいつも通りなのだけれど、ゴールドが会話をこんな風に始めた事は無かった。筈だ。
怪訝に思っているオレを知ってか知らずか。ゴールドはいつもの声のトーンで喋る。

「もしも、オレとシルバーが別れてもさ。オレ死んだりとかはしねーんだよ、絶対」

「………それは」反応に困り、オレはそのまま感想を言った。「あっさりしてるな、随分」

「だってさ、現に、オレ達会ったの何歳だと思ってんの?今まで会わなくても、フツーに生きてきたんだからさ、これからも大丈夫だと思わない?」
「禁煙できるようなもんか」

依存してる時は無いと生きていける気がしないが、止めてしまえば案外生きていけるものなのだ。
聴いた話だけれど。さすがに実体験では無い。
我ながらうまいたとえだと思って言ったのだけれど、受けはあまりよくなかった。「まぁそれでもいいんじゃない?」連れない返事である。

「でもさ、」

そこで来たのは逆接だった。

「ダメージはめちゃくちゃ受けると思う。死ななくても。おっきーやつ」

相変わらずゴールドは真っ直ぐと前を、前にあるであろう何かを見つめていた。
肩に寄りかかるゴールドの体重がさっきよりも重い。

「…お前は、オレと別れたいのか?」
「ちげーよ。もしもって言ったじゃん」

そのための三段重ねか。
だとしたら、ゴールドはどれだけ覚悟を決めてこの話を切り出したのだろう。
押しかけてきてからのぽーっとしていたように思われた時間は、本当は覚悟を決める大事な時間だったのかもしれない。

「とにかくさ」

黙ったオレをとりなすようにゴールドが言った。
声のトーンがさっきよりも上がっていた。無理矢理、取ってつけた様な感じで。

「もしもシルバーと別れても、オレは死なないし。ダメージ受けても、いつかは復活するし。だから大丈夫」
「何が大丈夫なんだ」

言って、溜息を吐いた。コイツはいきなり何を言い出すのやら、
………思い出した。
一度だけ、ぽつっとゴールドが話していた事。
オレは「この世とのオワカレ」の「終わり」しか知らねーんだ、と。
「家族」に囲まれて育って、小さな町だから住民全員が小さい頃からの顔なじみだと言う。
そんな人達との関係が「終わる」のは、その人たちが「この世とのオワカレ」をする時なのだ。
だから「気持ちが離れちゃう」とか「生きてるのに会わない」とか分かんねーんだよな、と。
詰まるところ、知らない「終わり」方を体験する事が、ゴールドは怖いのだ。
…その癖、オレのために逃げ道を作っておくのだ。ゴールドという人間は。

「ゴールドは、」

二人称は使わない方がいい気がして避けた。

「オレが「終わり」に出来る事は分かってるんだな?」
「…うん」
「じゃあ、ゴールドも同じ事が出来るって分かってるか?」
「………え」

ゴールドは眉をひそめた。
今すぐにでも挙手をして「先生この問題が分かりません」等と言い出しそうな表情である。

「その事について考えた事あるか?」
「……無い」

「じゃあ、」三回目だな、と思った。そういえば、これは接続詞という分類で間違いないのだろうか。挙手をして先生に質問したくなる。
我ながら下らない事を考えてるな、と今までの思考を一蹴して、オレはゴールドの髪に顔を埋めた。

「オレも同じだ」
「………」

どうやら、わざわざ席の所まで来てもらって先生に解説してもらったのにも関わらず、理解できなかったらしい。表情は冴えないままだ。
「…要は、」問題の分からない生徒はどうなるのだろう、と考えてしまって口が先に動いた。

「オレはゴールドが好きだ」
「…オレもシルバーが好き」

張り詰めていた横顔が、やっと緩んだ。














臆病なゴーがかきたかったのです。それでもシルに無理強いはしたくない、的な。
今更ですがキャラ捏造甚だしいですね、ごめんなさい。

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