ポケスペ

□鈍感ラバーズ
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「どうよ!?」

シルバーの眼鏡(強引に借りた)をかけ、ゴールドは勢いよく男子達を振り返る。

「………っぷ、」

誰かが吹き出したのを皮切りに、周りにいた男子達が一斉に叫んだ。

「「「似合わねーーーッ!!」」」
「!!?」

どうやらゴールドはその反応が想定外だったらしく、近くにいた男子に掴みかかる。

「何なんだよそのリアクション!」
「ゴールドぉ、お前似合わなすぎだって」
「もー見るからに『ゲームのやり過ぎで目が悪くなりました』って感じじゃん」
「シルバーの後だから余計なー」

そもそもの事の発端は、ゴールドがシルバーが眼鏡をかけ始めた事に気づいたからである。
シルバーとしては放って置いて欲しかったのだけれど、新しい物好きのゴールドが食いつかない訳など無く。

「シルバーとオレと何が違うんだよ!」
「見た目も性格も全く違うだろうが」
「学力もなー」
「うっせぇ!お前らもオレと同レベだろうが!!」
「学力的には俺らの方が上だって」
「…っうっ」
「図星ー」
「うっせぇっつの!」
「てーか、ゴールドさ。一回、じっくりシルバーの顔見てみ?んで、ダッシュでトイレ行って鏡見て来い」
「何で?」
「なんかもう、笑えるから」
「どーゆー意味だよ!!」
「あーでもマジで鏡見て来いよー」
「そんで現実を受け入れて来い」
「もし、目ぇ悪くなったら、ゴーは絶対コンタクトにしろ」
「お前ら好き勝手言いやがって…っ」
「「「だって本当の事だし」」」
「…っ」

圧倒的形勢不利になったゴールド。
自分でだって、似合うとは思っていない。
だけれど、こんなにも否定されると、負けず嫌いが頭をもたげてしまうもので。

「…っシルバー!!」
「!!?」

ゴールドは、もう形振り構わず、今まで傍観者を務めていたシルバーに話を振った。

「なあ!オレそんなに眼鏡似合わない!?」
「っえ…」

唐突すぎる展開にシルバーはたじたじだった。
が、正直な所、シルバーも他の男子達と同意見で、ゴールドは眼鏡が似合わないと思った。
金色の目がレンズ越し、つまり普段よりも一枚多くクッションがある事は、何だか嫌だったのだ。
だから、シルバーは極めて正直に、「全くもって似合わないと思う」と言おうとした。
しかし、こうも捨てられる間際の子犬のような目で見つめられると、きっぱり言えない物で。
悩んだ末に。

「…に、…似合うんじゃないか……」

途端、ゴールドの顔が輝いた。
捨てられる間際の子犬に、貴方が一人で面倒をみるなら飼っても良いわよ、とお母さんが言ったらこんな顔になるだろう。

「…シルバー、」

ゴールドはその輝かせた笑顔のまま、

「大好きだーーーーーーーーっっ!!!」

シルバーに抱き付いた。

「こらこらゴールド君」
「シルバー明らか困ってるって」
「さっさと離れなさーい」

諌める男子達も日常茶飯事なので笑い交じりだ。
シルバーは首にかじりついてくるゴールドをなんとかひっぺがし、その頭を頭をばちんと叩いた。
いくらなんでも心臓に悪すぎる。
叩かれた頭をさすりつつ、しかし勝ち誇った顔でゴールドは男子達を振り返る。

「見る人が見れば似合ってんだよ!お前らの目は節穴だな!」
「いやいやいや。今のはどう考えてもシルバーが空気読んでくれてんじゃん」
「ゴーにそーゆー事いっても無駄だって」
「何でこの子は空気に敏感な時とそうでない時があんのかねー」
「?」

一人疑問符を浮かべるゴールド。
シルバーはまたも男子達と同意見である。

「ってかゴールドさぁ、いつまで眼鏡かけてんの?目ぇ悪くなんじゃね?」
「まじでか!」
「ほらさっさとシルバー君に返しなさい!」
「お前何キャラだよ」

ゴールドはかけていた眼鏡を取って、丁寧に畳んでからシルバーに差し出した。

「ちゃんと御礼言ったの!?」
「だっから、お前は何キャラなんだよ!!」
「あ、次教室移動だ」
「やべ」
「早く行こうぜ」
「あーうん。シルバー眼鏡あんがとな!」

十分休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
最後に教室を出たゴールドが、ぴしゃんと扉を閉めた。



***


ぴしゃん、と扉が閉まる。

「はぁ………」

そこから一呼吸おいて、オレは小さく息を吐きだした。

ゴールドが触れた首筋をなぞってみる。
アイツはこういう事はよくやるし、実際、見た事もある。
誰にでもやる事なのだと、分かってはいるのだけれど。

こっちはこれほど思い焦がれて、でも、それを表に出すまいと必死なのに。



「………鈍感」



***


ぴしゃん、と扉が閉まる。

「はぁ………」

思わずため息が漏れた。

シルバーに抱き付いた腕を抱いてみる。
勢いで思わず抱きついてしまって、我ながら馬鹿だと思う。
どうせアイツは、オレの事をうるさいクラスメイトくらいにしか思ってないだろうに。

こっちはちょっとでも近づけないか模索してばっかなのに。



「………鈍感」


















ありがちである。

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