ポケスペ

□深夜
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何度目かの寝がえりをうつ。

でも、眠れない。


別に今日寝坊した訳でも、日中疲れなかった訳でもないのだ。
なのに、どうしてこんなにも眠気が訪れないんだろうか。
ちゃんと仕事しろよ、睡魔。
何で要らん時に来て、要る時に来ないんかな。


もう一度、寝がえりをうつ。

結局、さっきと同じ姿勢に戻る、


「っうあぁぁ!!?」


びくっと体が跳ねた。

豆電球だけの薄暗い部屋に、銀色がぽっかりと、二つ。


「・・・うるさい」


銀色が細まる。顔をしかめている。
眠れなかった所為で、目は暗闇に慣れていた。

赤い髪がさらりと流れる。
シルバーだ。当たり前だけど。何を驚いたんだよ、オレ。
平静を取り繕うべく、大声を出す。


「何で起きてるんだよ!?」


さっきまで規則正しく呼吸音がしていた。筈だ。
だから声かけないで、大人しく一人で寝ようとしていたのに!


「横でずっとがたがた動いてたら、寝たくても寝れない」


どうやら一人で寝ようとしていたこと自体が原因らしい。
・・・どーもすみませんね!

しかしながら、コイツの声はとても眠そうで。
オレ様が寝られないっていうのに、お前は「寝たくても寝れない」、ねぇ。


「贅沢だ!この贅沢もん!!」

「意味分からん。さっさと寝ろ」


うざったそうな表情で、シルバーはオレに背を向けるように寝がえりをうとうとする。
その動作が終わる前に、オレは言う。


「寝れたらこんなに苦労しないんだっつの!」

「・・・寝れないのか」


情報処理速度が遅ーんだよ。
さっきからそう言ってるだろうが。

寝がえりは諦めて、先程の姿勢に戻りながら、シルバーは不満げな表情で言う。


「そんな事一言も言ってないと思うんだが…」

「汲み取れ!読解力が足りないんだよ!」

「お前にだけは、読解力云々を言われたくない」


言いながら、シルバーは大きな欠伸をした。
オレは欠伸さえもでないっていうのに、本当にコイツは!


「っ、道連れにしてやる!」

「それは嫌だ。眠い」

「知るか!」


シルバーは少し考えるような表情をした。
そして、赤い髪を掻き上げて、意味深に口角を上げる。


「…要はお前が寝れればいんだろう?」

「念のため言っとくが、薬とか暴力とかは却下だから」

「っち、」


舌打ちってことはするつもりだったんですかお前は。
最早人間じゃねぇよ!どんだけ根が腐ってんだよ!


「あ、」

「次は何だよ。自分だけ違うとこ行って寝るとかも却下だからな」

「それも駄目なのか」

「え、まさかそれ考えてたとか!?」

「いや、もっと平和的な解決方法」


平和的?
疑問符を浮かべるオレに、シルバーはちょいちょいと手招きをした。

ダブルベッドとはいえ男子二人で寝ると少し狭いこのベッドの上で、何で手招きをするのか?
内心疑問に思ったが、「平和的」という言葉への好奇心の方が勝った。

だから、オレは素直に手招きに従ってしまった。


「っうあっ!?」


ぐっと腕を掴まれ、引き寄せられる。
咄嗟の抵抗も空しく、すっぽりとシルバーの腕の中。


「離せバカ!!」


叫んだが、当たり前だが、離してもらえるわけもなく。
オレの叫びをきれいにスルーして、シルバーは形のいい眉をひそめて言う。


「…ゴールド、体、熱くないか?」


誰のせいだ誰の!!
気づけよあぁでも気付いたらそれはそれで嫌だ!!


「…子供っぽい」


知るか!!
ってか何で耳元で喋んだよ!!
オレの髪に顔をうずめるようにするものだから堪ったもんじゃない。
近いんだよ、顔が!!



「離せっつてんだろーが!!!こんの赤毛やろ…」


ちょっと待て一旦ストーップ。

耳元で聞こえるのは規則正しい寝息。
今度は「筈」じゃない。

ふぅとため息をひとつ。
寝れないつらさは誰よりも知っている優しいオレは、怒鳴るのを止めてやる事にする。
その代わり明日の朝一番に殴るけどな!三倍返しとはよく言ったものだ。


「…ふ、わああぁぁぁあ」


欠伸がでた。さっきまで出る気配さえもなかったのに。

まぶたが重い気がして、目を閉じる。
暗闇が優しく手を伸ばす。

この際だからと、シルバーの胸に顔をうずめる。
大きく呼吸をすれば、シルバーの、夜にも似た、匂いがした。


今だけ、今だけ。

明日になったら絶対殴るから。

今だけ、今だけ。



おやすみなさい。よいゆめを。









何かどっかで似たようなのをかいた気が…?

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