学園モノ

□残暑
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風邪 【かぜ】

寒気がして、頭痛や鼻水・せき・発熱などを伴う呼吸器系の病気の総称。感冒。
ふうじゃとも読む。
一般に馬鹿はひかないとされる。




「はい」


ゴールドが声につられて振り向くと、体温計が差し出されていた。


「・・・ばれた?」

「何年、あんたの親やってると思ってるの」

「十ねーん」

「五年でしょ」


正解は十六年だが、親子は期間をわざと短くしていく。
その掛け合いこそ十六年の年月あってこそだ。

その中で親に逆らう事は得策ではないとゴールドは知っていたので、黙って体温計を耳に当てる。
母親が手を伸ばして、ゴールドの額に触れる。


「夏風邪ね」

「え、分かんの?」

「だって、あんたは風邪ひかないでしょ」

「うっわー親が言う事かよ」


ぴぴ、と軽やかな電子音がしたので、ゴールドは耳から体温計を抜き液晶画面を見る。


「何度?」

「・・・七度ちょうど」

「休みなさい」

「やだ!ぜったいやだ!!」

「小学生じゃあるまいし駄々捏ねないの」

「だって日数足りない!単位取れない!!」

「自業自得です。留年しなさい」

「親が言う事じゃねーよそれ!!」


休みなさい、と続けられゴールドは返す言葉が見つからない。

慌てたその時。

ぴんぽーん、とまさに絶妙なタイミングで救いのチャイムが鳴る。


「シルバー来たから!」

「もう…。無理しないのよ」


頑固な事はもう知っているから、止める手も体力の無駄だ。
誰に似たのやら。


「いってきまーす!」

「いってらっしゃーい」


閉まる扉の音を聞きながら、母親はコマった息子に小さく溜息をつく。
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