頂捧他
□かげろー様より
1ページ/1ページ
「シルバーってさー、誰にでも『好き』って言えちゃうの?」
「…………は?」
いきなりやってきて勝手にくつろぎ始めたかと思えば、急に何を言い出すんだこいつは。
こいつの考えてることはさっぱりわからん。わかりたくもないが。
「誰にでも『好き』と言えるか」そんなの…、
「無理に決まってるだろ」
お前は今まで俺の何を見てきた?
「ふ〜ん…じゃあさ、ブルー先輩のことは?好き?嫌い?」
ゴールドの質問に頭が痛くなる。本当に何を考えてる。
奴は俺に背を向けて雑誌を読んでいるため表情を伺うことはできない。
「……好き、だ。尊敬している」
奴の心情がどうであれ姉さんを嫌いと言うのは無理だ。今俺がこうやってここにいるのも姉さんのおかげだし。
しかし、ゴールドには納得いかなかったらしい。
「ほーら、やっぱ誰にでも言えんじゃねぇか。答え、矛盾してるぜ?」
「………」
言い返すこともできたけど、今はこいつの言い分を聞きたいので黙っておく。
さっきより語調が強くなった声が、少し湿っぽかったから。
案の定奴は言葉を続けた。悲しそうに。
「誰にでも言えるのに、何で俺には言わねぇわけ?一番言うべき相手じゃねぇの?恋人なんだし」
そういえば、こいつには一回も言ったことなかったな。
付き合うときも、奴の告白を受けた形になるわけだし。
それが、不安だったのか。
今更ながら言わなかったことを後悔する。
「つーかホントに恋人だよなぁ?付き合ってんだよなぁ?でもさー、シルバーは一度も言ってくんねぇし…もしかしてオレと付き合うのイヤイヤだったんじゃねぇ?恋人って肩書き、イヤだった?」
堰を切ったかのように言いつのるゴールドの言葉に頭痛がひどくなった。
何で、そうなる!?
ゴールドはずっと背を向けてるが、声だけでもう泣いているのがわかった。
…できればわからない方がよかったが。奴の涙は苦手だ。
「シルバーの弱みつけ込んで、無理矢理付き合わせちまったんだよな?……悪ィ」
「ゴールド」
どんどん鋭さや大きさを失う奴の声に、とにかく何か言わなければと思う。
それにしても……
「とりあえず、弱みって何だ?」
「……シルバー今までダチ公っつーか…そーゆーの居なかっただろ?だからやっとできたのに失うのが恐いだろうな……って」
確かに
一瞬納得してしまったが、それを言ったら本気でゴールドと別れることになりかねない。
それにしても、と思う。
こいつは普段あんなに自信に溢れ返っているように見えるのに…何でこんなにも後ろ向きに考えるのだろうか。
まぁ、俺も言えたことでは無いが。
とりあえず、さっき一瞬でも納得したのを取り消したい。奴には伝わってないだろうが、それでも自己嫌悪する。
「なわけないだろう」
今までしてきた失敗を取り消したい。しかしそれは不可能だ。
だったら、せめて上書きしよう。
普段より小さく見える背中を後ろから抱きしめた。
「!!!」
「悪かった」
今までお前に甘えていた。
恋人という関係でありながら、お前の異常に気付かなかった。気付こうともしなかった。
お前はこんなに傷ついていたのに。
「…何しやがる」
放せ、と呟く声を無視して、逃げようとする体を腕に力を込め押さえ込む。
自分を拒むのは痛いが、今までの自分の行いを考えれば仕方ない。
だからといって、逃がす気はないが。
「放せっつってんだろ」
「断る」
即答かよ!!とつっこむ声も虚勢張ってるのがみえみえで痛々しさを増すだけだ。
そんなお前、俺は見たくない。
そんな言葉、俺は聞きたくない。
更に言葉を重ねようと開いた口を己の口で塞いだ。
ただ重ねるだけの口づけ。
なのに、それだけで心が満たされるのは、やはり俺はこいつが好きなんだ。
ずっとしていたい。このまま、永遠にーー。
それを破ったのはアイツだった。
「な…にしや、がる…!!」
頬を紅潮させ、唇を拭いながら俺を睨むゴールドをごく自然に可愛いと思った。
…何ってただのキスなのだが?あぁ、そういえば初めてだったな。
そして俺はまだ誤解を解いていなかった。
「好きでも何でもない奴にキスなんかしない」
俺がそんな奴に見えるか?
そう聞くと戸惑うように視線が泳いだ。
「でも!!…好きっていわねぇじゃん。先輩には言えるのに……」
「それは…恥ずかしかったからだ」
そう告白するのも少し、いやかなり恥ずかしいが、消え入りそうな声にそんな気持ちどこかにいった。
告げた途端ゴールドの顔がようやくこちらを向いた。不安そうだが、先程までの声に比べたら随分と明るい。
「じゃ、じゃあさ!今度こそ言え。……オレのこと好き?」
…本当に可愛いな。
普通に好きと言おうとしたが、少し違う。
これではアイツは姉さんに対する『好き』と区別しないだろう。
なら…
「勿論、好きだ」
「ブルー先輩より!?」
ほら、やっぱりな。
「…お前は一つ誤解している」
「え……?」
「確かに二人とも『好き』だ。
だが姉さんに対する『好き』は、ただの『好き』だ。
しかしお前に対する『好き』は…、」
驚き戸惑ってるアイツを抱き寄せて、その耳に囁いてやろう。
「『好き』と言うよりも、
『愛している』
と。
(顔を紅くさせはにかむアイツを見て)
(自分の行動は間違っていなかった、と安心した)