連載
□人は規則を守らない
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月さえも照らしてくれないような路地裏の道。
静けさが耳に痛い。
それを差し引いても、ここはいい狩場だった。
一つ目に人目がない事。見られるとややこしいから。
二つ目に一本道な事。道具でもなければ逃げられる事は無いから。
三つ目に近道だという事。人は好んでこの道を通るから。
以上からオレは好んでこの場所を狩場としていたのだがそれが逆に裏目に出てしまった。
噂になってしまったのである。
どうやら「ここはデる」という情報が流れたらしい。人通りは激減した。
激減しただけで済んだ、というべきか。
人は相当愚からしく、親が言おうが先生(という役職があるらしい)が言おうが必ず規則を破るものが出る。
ある者は肝試しに、ある者は近道として、ある者は死ぬために、ここに来る。
どんな者でもよかった。
血さえ持っていれば食べる事が出来るし血の持っていない人がここを通った事は無い。
「おいしい」「まずい」の感情が他者よりも薄いらしい自分は人の血なら何でもよかった。
そして今日も獲物を待つ。
最後に食べたのは一週間ほど前だったが、人一人丸ごと食べたので餓死するほどの餓えではない。
昨日は「はずれ」の日だったしもし今日も「はずれ」なら明日は狩場を変えよう、そう構えていられるほどの余裕がある。
その程度の餓えだ。
小さな足音をとらえたのはその時だった。
音からして子供か。
急に餓えが大きくなった気がした。食べられると知って腹が減り始めるなど、なんて現金な。
唇を舌の先で舐める。
人影は、もう、すぐそこ。