short

□かわいいうそつきに制裁を
1ページ/1ページ

「ねぇ、なんで君っていつもそんな仏頂面なの」
「あたしにはなんであんたはいつもへらへら笑ってられるのか不思議だわ」
「質問に質問で返さないでくれるかな」
「それは失礼」


いきなり何を言い出したかと思えば、また何時もの気まぐれかと適当に流して茶を啜った。思いの外熱かったそれに舌を焼いた、ひりひりした痛みに苛立つ。


「はぐらかさないで答えて」
「あたしは仏頂面しか出来ないの、わかった?」
「嘘だよ、それ」
「あんたがどう思おうがどうでもいい」
「可愛くない」
「女が可愛いだけだと思ったら大間違いよ」
「違うよ、その新しい簪」
「へ?」


にやりと口元に三日月を浮かべた彼がそっとあたしの髪に挿された簪を引き抜く、纏めていた髪がはらりと解かれる。何すんのよと睨み付けると彼は張り付いた笑みのまま、その手にある簪を見つめていた。そして一通り見終わるとぽいとそれを放り投げてしまった。


「なっ、ちょっと総司…」
「誰に貰ったの?」
「…は?」
「だから、誰にあの簪を貰ったのかって聞いてるんだよ」
「副長がお土産でくれたのよ、誤解しそうだから先に断っておくけど千鶴ちゃんにもあげてたから」
「ふーん、やっぱりあの人か」
「何でそんな事わかるの」


知りたい?とにやつく彼に最後の大福を差し出すと迷わず出された手が大福を奪い去り、そのまま彼の口にそれを運んだ。


「いい?一度しか言わないからね。まず、簪の種類。平打簪は確かに人気だけど君には少し子供っぽいから玉簪辺りが似合うと思う」
「あと全体の色合い、基本は赤でいいんだけどあれはしつこすぎる。それと装飾も鎖であれこれ繋ぐより硝子玉で締めた方が…って何笑ってるの」
「別に」
「人が真面目に話してるのに」
「ちゃんと聞いてるじゃない」
「…まぁ、いいけど」


「結果的に、あの人にはそういう才能が皆無だって話」
「俳句も酷いもんね」
「…君も中々酷い」
「お互い様でしょ」


解かれた髪が邪魔で仕方ない、少し苛立ちながら髪を耳に掛けると彼はまたにやにやしながら私を見つめる。そしてそっと袖口から小さな包むを取り出すと、それを無言で差し出してきた。不審がりながらも受け取り包みを解く、中から出て来たのは少し小さな簪だった。


「可愛いでしょ、それ」
「あんたが選んだの?」
「君に似合うと思って」


飾りっ気無しの子供の様な笑みを浮かべた彼があたしの反応を待つ。淡い水色の硝子玉が印象的な玉簪を見て、ついつい笑いが漏れた。あんな前置き無くたって渡せそうな物なのに。


「流石総司、見る目あるじゃない!」
「だよね!ねぇ、早く挿してみてよ」
「そうね、誰かさんが持ってた簪駄目にしちゃった事だし」


皮肉めいた言葉も今の彼には聞こえていない様子で早く早くと、袖を引っ張りせがんできた。苦笑しながら結った髪にそっと簪を挿す、生憎、手鏡なんか持っていないからあたしからは似合っているのかはわからないけど。


「どう?」
「うん、似合ってる」
「それはどうも」
「あのさ」
「うん?」
「さっき、仏頂面しか出来ないって言ってたよね。覚えてる?」
「あんたに嘘だって言われたやつね」
「それやっぱり嘘だったよ」
「どういう事よ」
「だって、物凄く可愛い顔してるから」


そう言われて、一瞬思考が停止した。やたら真面目な顔をした彼の口から飛び出した何の変哲もない口説き文句にかぁと顔に熱が集まるのを感じる。それを見られたくなくて俯いた途端に、隣で小さな笑い声がした。やられた!と睨み付けると彼はまた可愛い可愛いと歌う様にその言葉を連呼するのだった。


title by hmr


簪についてはWikiさんを流し読みした程度の知識ですのであしからず。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ