愛され人の日常

□純情ちょこっとラブ
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 …あれは、俺がまだ中2だった頃。








「…ん?」



 くいくい、と制服の裾を引っ張られ下を見ると、小さな女の子がいた。



「?…なんだ、お前。父さんか母さんは?」


「いないの…」



 泣きそうな顔で呟いた。




(あ〜…迷子か…)


「…………」




 ちっちゃいくせにいっちょ前に泣くのを我慢しているのか、裾を掴んでいる手にきゅっと力がこもる。



「…ふぅ…仕方ない。俺が一緒に捜してやるよ。お前自分の名前言えるか?」


「水城…4さい」


「おし。俺は弘樹だ、よろしくな」




 笑いかけてやると安心したのか泣きそうな顔から笑顔に変わった。




「ひろきおにぃちゃん、ありがとう!」


「お、おう(こんなガキにときめくって俺はロリコンか!!)」




 あまりの可愛らしさにやられつつ手をつないで歩き出した。




「なぁ水城。父さんと母さんどっちと来た?特徴分かるか?」


「えっとね、水城おかあさんと来たの。おかあさんは…ぽややんってしてる」



(…ぽややんって。)




 4才の娘にぽややんってしてる、って言われるってどんだけだよ、水城母。



 弘樹はまだ見ぬ水城母に苦笑した。






 しばらく質問したり答えたりを繰り返しながら歩いていると、ようやく水城の母らしき人物を見つけた。




「水城ちゃあぁぁぁぁぁん!!」




 …見つけたというより、向こう側から猛ダッシュで走って来た、だな。うん。娘の水城ですら固まる勢いで。




「水城ちゃあぁぁぁぁぁん!ごめんなさい〜!」


「おかあさん!」


「よかったな、水城。母さん見つかって」




 ぽんぽん、と頭を撫でてやるとうん!と大きく頷いた。




「本当にありがとうございます…!」


「あ、いや…」


「ひろきおにぃちゃん…」




 名残惜しそうな水城に弘樹は苦笑して目線を合わせるようにしゃがみこんだ。




「ほれ、ちょっと動くなよ…」




 ポケットの中に入っていたリボンを手早く水城の髪に結ぶ。




「よし。コレやるよ」


「うわぁ!リボンだぁ!」


「まあ、いいんですかこんな綺麗なリボン…」


「ああ、いいんですよ菓子の袋についてたヤツですんで」




 きゃっきゃとはしゃぐ水城に満足げに笑う弘樹。




「気に入ったか?」


「よかったねぇ水城ちゃん」


「うん!」





「ひろきおにぃちゃん、ありがとう!またねー!」




 母親に手を引かれて満面の笑みで手を振る水城に弘樹も手を振り返す。





「またね、か…本当にどっかでひょかっと会いそうだから不思議だな」










「すまん弘樹、待たせた…?ヤケに機嫌がいいな」


「別に何でもねぇよ!」







 俺、14歳。水城、4才。再会、大学。


 お互いにお互いだったと気づくのは、もっと先。



 
 

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